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第5回集中スクール in 岩手報告


1. 岩手集中スクールに託されたもの


school5_photo01.jpgパリ本番まで半年を切り、ゴールに近づくにつれ新たな課題も次々と姿を現します。しかしその一方で、もともとこのプロジェクトがめざしていたもの、プロジェクトに込められた思いは何だったのか、最後の集中スクールだからこそふり返らなければならない、という思いで、事務局は準備にあたりました。
プロジェクトが始まったばかりの頃、OECDから提案されたプロジェクトの骨格を事務局で見なおし、東北のブランディングやグローバル力への対応、未来へのビジョンなど、手つかずのままになっていることがたくさんあることに気づきました。そしてまた、2013年末あたりからしきりに議論されるようになってきた「コア・メッセージ」や、生徒達の成長の「見える化」と分析。今回もまた、たくさんの課題を抱えて集中スクールに臨むことになります。今回のテーマは「初心に返る」!




2. 原発問題とコア・メッセージ

school5_photo02.jpg3月21日、原発問題とコア・メッセージの議論のために、リーダークラスの生徒達が一日早く岩手入りしました。コア・メッセージはOECD東北スクールの中心であり、生徒達が世界に向けて放つメッセージです。それは、たんに経験の羅列や思いつきでいいわけはなく、世界の人たちを納得させる「重み」と「哲学」と「美しさ」が必要です。
はじめに原発問題についての議論です。東北スクールにとって原発問題はとても大きな問題です。まず、この問題に対してフランス側の関心がとても高いこと、そして生徒達の中には事故で避難している者もいれば、東電の社員を保護者に持つ者もいます。その意味では、東北スクールは福島の縮図ということもでき、議論することがとても困難と考え、これまで議論の場を設定してきませんでした。しかしいつまでも逃げるわけにはいきません。保護者たちからも「自由に発言してもらいたい」という言葉をいただき、思い切ってこの時間を作りました。

school5_photo03.jpg生徒からは「まずは、自分たちの体験した現実の姿を明らかにすること。」「被災者と非被災者が入れ替わってディベートを行う。」「東電の作業員の姿を見てもらいたい。」などの被災地の生徒ならではの声が飛び交い、とても意味のある時間となりました。
続けてコア・メッセージでは、生徒達に「東北スクールで成長したこと」を自由に上げてもらいました。それらを整理すると、ほぼ大人が意図したとおりのマップができあがりました。「じゃあ、そこから何を世界に伝えたい?」との質問に、「私たちこそが社会を変える!」というメッセージが浮かび上がりました。他のことも含めて、生徒達の成長ぶりを改めて確認することができました。大人が見ている以上に、生徒達は大人になっていると誰しも感じることのできたワークショップでした。



3. Gad氏とのミーティング

フランス側でイベントを請け負うGad氏が今回も参加しました。フランス側の資金調達が思うように進まんでおらず、昨年末のリハーサルから何度も調達額とイベントの規模のすりあわせをやり直してきました。今回はチームごとにGad氏と話し合い、構想の実現可能性やアイディアについてミーティングを行いました。全体の話し合いの中ではGad氏に対して生徒から「お金がなくてイベントを削らなければならないのか、しっかり資金調達を進めてほしい」という意見も出されました。Gad氏からは「資金が集まるよう努力する」という決意表明がありました。
その後、できたてのユニクロとコラボしてつくったチームTシャツを全員で着て、記念写真を撮りました。チームとしての満足感を再考に感じることのできた一時でした。
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4. 大人たちのカミングアウト・タイム

school5_photo05.jpg未来をイメージすること」は、プロジェクトの根幹となるとても大切な課題です。しかし、生徒達が書いた「100の物語」を読む限り、あまり明確になっているとは言えず、未来に込められた意志があまり感じられません。そこでアクセンチュアさんが考案した未来を考えるワークショップを行おうと考えたのですが、結果的に時間が足りず、東北スクールの大人たちが生徒達の質問に応えて語るというワークショップとなりました。
 「今のうちにやっておいた方がいいことは?」「将来何になっていいのかわからないが?」「国際的な仕事をしたいがどこで学べばいいか?」などの質問に、次々と大人たちが答えました。これまであまりパーソナル・ストーリーを話す機会の少なかった大人たちが赤裸々に語る姿に、生徒達は釘付けとなっていました。大人・子ども協働モデルの醍醐味を見たような気がしました。その後にグループに分かれ、大人を囲んでさらにテーマごとに話し合いを深めました。最後に「100の物語」の最終的な段階に進めるよういくつかの指導がありました。



5. 山中事務次官とOECD教育局マイケル課長

school5_photo06.jpg今回も、山中事務次官が雪深い岩手までお越しくださいました。また、田熊さんの上司であるデービッド・マイケル課長がわざわざ来日されました。2日目にはお二人に加え岩手県教育委員会の皆様にもお越しいただき、OECD東北スクールの成果を報告する会合がもたれました。岩手から出ている三浦君と中井さん、そして岩手と連携している大熊の遠藤さん、全体リーダーの佐藤君らが震災の思い出や東北スクールで学んだことを述べたところ、岩手県教育委員会の皆様型からは「このようなプロジェクトをやっていただいて感謝している」という、お礼のお言葉をいただきました。
school5_photo07.jpgまた、マイケル課長からはOECD東北スクールの先進性と、個別の問題解決能力ではなく集団としての問題解決能力が必要という課題も提示されました。その前日には、生徒達のKPI評価を共有する大人熟議が開催され、マイケル課長も出席されました。「地域間交流や世代間交流が生徒達の成長を支えている」「グローバル力や巻き込み力などが課題」などの研究成果に、マイケル課長から満足のお言葉をいただきました。またその後に、にわか仕立ての「東北スクールに携わったメリットとデメリット」というテーマでワークショップを行ったところ、これまでに聞けなかったLLやEPの本音を聞くことができ、これについてもマイケル課長から「とても大切なワークショップ」と評価されました。



6. 院生たちの「卒業式」

school5_photo08.jpg夜の話し合いの時間の中、突然、音楽が鳴り、これまでOECD東北スクールに関わってきた二人の院生と東京の教員になる諸戸さんの卒業式が始まりました。二人の院生も福島県内の小学校の先生になります。思えば、第1回集中スクールは、彼らの学士課程の卒業式の日でした。そして2年を経て明日が大学院の卒業式。生徒達からは記念品も贈られました。二人の院生、諸戸さんからは挨拶が述べられました。







7. 東北のブランディング・プレゼンテーション

school5_photo09.jpg「東北のブランディング」もまた、スクール当初に与えられた課題でした。日本の他の地域に比べブランディングが後れ、いいものがあるにもかかわらず外国からの知名度が圧倒的に少ない東北地方。その東北の歴史や文化、産業、観光資源を調べることが今までないままここまで来てしまいまいた。東北復幸祭ではオープニングで「東北」を紹介するつもりですが、いまだその紹介内容も決まっていません。そこで、テーマごとに生徒達にグループを作らせ、インターネットなどで調べプレゼンテーションを行うという課題を出しました。1日かけてつくったプレゼンテーションの完成度はどこも高く、中には英語で紹介するグループもありました。その後厳選なる審査を行い、2つのチームがチャンピオンに選ばれました。




8.最後の集中スクール終了

school5_photo10.jpg最後に田熊さんから英語で生徒への挨拶がありました。「被災地だけで完結するのではなく、いろいろな人に委任する力」「グローバル力とローカル力の両面性」「一人ひとりで問題を解決するのではなく、集団で解決する力」の3つを今後の課題としてくださいというものでした。そして、8月のパリで再会することを誓い合い、恒例の「WA〜」を叫び、最後の集中スクールは終了しました。






9. さらに……

school5_photo11.jpg生徒達は各のバスで、岩手を後にしましたが、それでも会議は終わりません。この後に国際弁護士を交えてイベント規模と資金調達のすりあわせと、そしてパリ側の資金調達についての会議、さらには富士通のクラウドによる映像送信技術の打ち合わせが続きます。リハーサル合宿で「ディシージョン・ポイント」とされながらも、全体の計画が資金不足により固まらず、その都度その都度決め直さざるを得ない状況となっている現状です。
思えば、最後の集中スクールは予めつくったアジェンダ通りにほとんど進むことなく、その都度その都度変更に変更を重ね、それでも全体が混乱することなく、最終的にはほぼすべての懸案事項はクリアできたスクールということができます。現状にあわせ常に計画を変更し、みんなが参加してつくったスクールになったような気がします。プロジェクト全体の縮図のような気もしました。

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