OECD東北スクール始動!

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 2012年3月26日(月)から30日(金)にかけて、福島県いわき海浜自然の家において、第1回OECD東北スクール・スプリングスクールinいわきが開催されました。 集まった生徒達は80名で、岩手県の釜石市、大槌町、宮城県の気仙沼市、南三陸町、女川町、福島県のいわき市、伊達市、相馬市、大熊町の中学生70名と高校生10名でした。津波で家族を失った生徒、家を流された生徒、放射能に汚染されふるさとを失った生徒など、大きな悲しみ・苦しみを乗りこえてきた若者たちです。いずれも自分たちの地域の復興を真剣に考え、かつ、単に地域復興に留まらず、国際的な視野を得て、これまでとは異なる地域のあり方を模索しようとする雰囲気も当初から伝わってきました。
 エンパワーメント・パートナー(応援団)として東京大学附属高校、奈良女子大学附属高校の生徒達、そして引率教師やNPOのローカルリーダー、ワークショップを行うファシリテーターも加わり賑わいを見せます。このスクールでは、それぞれの参加者が、自らその都度軌道修正を行いながら進めることで、全体が多層的に展開することになります。



過去から現在、そして未来へ

DSC_0107.JPG スプリングスクールの初日、オープニングセレモニーの冒頭、OECD教育局長バーバラ・イッシンガー氏の「ミッション・ポッシブル:2014年8月にパリで東北の魅力を伝えるイベントを開催せよ!」という、プロジェクト全体のゴールがユーモラスに示されました。ここに、2年半という長期にわたるプロジェクト「OECD東北スクール」の幕が切って落とされました。続いて、アンヘル・グリアOECD事務総長、マセ駐日フランス大使、吉川OECD日本政府代表部大使らからのビデオメッセージも披露されました。
 ワークショップは、池上彰氏(フリージャーナリスト)による自己紹介から開始されました。参加者80名のすべてが全体の前で自己紹介を行い、「固有名詞はゆっくりと」、「話す相手の顔をよく見て」、「『よろしくお願いします』を別な言葉で置き換えてみよう」など、生徒達はその都度、池上氏からコミュニケーションスキルのアドバイスを受けていました。


座ったまま悩むな 動いて考えよ!

DSC_0102.JPG 続いて、三谷宏治(金沢工業大学)氏による「発想力・探究力」のワークショップです。三谷氏は企業戦略の基礎には発想の転換が必要不可欠とし、ワークショップは錯視などを例に挙げたり、「どうして紙コップは台形の形をしているのか」などの例を考えさせたりして、われわれの日常がいかに偏見にとらわれているかを痛感させてくれました。三谷氏のワークショップは参加した生徒達の中でもっとも印象に残ったものとして指摘されており、池上氏のワークショップと合わせて、全体のスタートとして極めて有意義なものとなりました。「座ったまま悩むな、動きながら考えよ」という三谷氏の言葉が、あたかも復興を進めるための哲学のように印象に強く残ります。
 続いて、三浦浩喜(福島大学)氏による、震災前後からこれまでの1年間をふり返りそれを1本の線で表現するワークショップが行われました。短い時間でしたが、震災直後の絶望的な状況からそれぞれの立ち直りの軌跡が描かれ、「このときはこうだった」といった具合にお互いに情報交換を行い、共同的に想起されていたことが印象的でした。これはその後の混合チームでの自己紹介に使われ、第2回以降も新しい心の動きの線が加えられていきます。
 過去をふり返った後に、今度は「過去から今を生きる」とした池上氏のワークショップはさらに展開します。「復興と復旧の違い」を考え、東京大空襲時と東日本大震災時の津波被害の写真の酷似している様子などが示され、復興の可能性が示されました。
DSC_0087.JPG スプリングスクールはワークショップばかりではなく、生徒達の生活自治を枠組みとして持ち、リーダーグループが学習と生活を自己管理し、かつ、生徒達の意思を集約し表明するオートノミー(自律性)を重視しました。それは、単なるお客さんとして参加するのではなく、スクールを主体的に形づくる一員として考えるということです。夕方生徒達は係ごとにミーティングを行い、一日の活動を総括し、学んだ点や明日への課題を指摘し合いました。また、生徒達は出身地域ごとの「ホームチーム」とそれをミックスした「混合チーム」の二種類のチームが組織され、ワークショップの内容に応じて変えました。また夕方のこの時間は、引率者(ローカルリーダー)同士の情報交換や今後の進め方について議論をする時間として重要な時間となりました。
 スプリングスクールの二日目は、「東北けんみんショー!」と題した池上彰氏によるコラージュによるお国自慢のポスター制作のワークショップが繰り広げられた。わずかな時間でそれぞれの地域のアピールポイントがコラージュで示され、改めて生徒達の地域への思いが強く感じられるものとなりました。中には放射能汚染によってふるさとを失った生徒たちが「どこのポスターをつくればいいのか」と悩む姿も見られました。
 午後はElmund Lim氏(シンガポール・小学校校長)と池上氏による「未来の自分、未来の東北、未来の日本は?」と題した自由な造形材料を用いて未来を表現するワークショップと、磯崎道佳氏(造形作家)の自分のシルエットに未来の自分の姿を表現する活動が展開されました。磯崎氏のワークショップは、次回夏の東北スクールで個々の作品が一つにつながり、巨大なドームとなる予定です。ここまでで「過去─現在─未来」の流れを構成し、生徒達を未来へと志向させることになります。


チーム環の誕生──変化のとき

DSC_0297.JPG 3日目は、Gad Weil氏(国際的イベントプロデューサー)をはじめとしたパリチームによるGoogle Earthなどを駆使した目的地パリの紹介と、活動チームの名付けと役割分担のワークショップです。Gad氏による過去のイベントの事例紹介は圧倒的なスケールを持っており、生徒たちは呆気にとられたようでした。Gad氏は、ホームチームごとに自分たちのグループ名を決めさせます。「東北維新」「Solidalite」「東北スマイル」「Emishi」などユニークなネーミングが続きます。それを一つの輪となってチーム全体の名前を議論させ、生徒たちはお互いに意見を述べ合い付属ます。その結果名付けられたチーム名は「環」でした。被災地同士が、あるいは非被災地とも協力し合いながら、日本と海外が一丸となって復興をめざすという思いが託された名前で、全員で肩を組み「wa〜」と叫んだその瞬間は極めて感動的な瞬間となりました。続く「シナリオ作成」「資金調達」「コミュニケーション」の役割分担と合わせて、80名の参加者が集団として質的に大きく変化した時間でした。

 同日夕方には、梛木泰西氏(テレビプロデューサー)によるセルフドキュメンタリーのワークショップが行われ、今後の活動を自分たちの視点からていねいに記録してゆく意義と方法が示されました。また、その夜は、生徒の発案でささやかなパーティータイムがもたれました。ハンカチ落としやジェスチャーゲーム、ジャンケン大会など素朴ではありましたが、子どもらしさを十分に発揮した貴重な時間となりました。


子ども・若者の視点からの地域復興

スクリーンショット 2013-07-13 14.25.57.png 4日目は内田和成氏(早稲田大学ビジネススクール)のマーケッティングのワークショップでは、東北をアピールする視点とそれをビジネスとして受け入れてもらうしくみを考えます。ものごとを企画するには戦略が必要ということで、実際に企業の考え方なども採り入れ進められます。これは午後からのホームチームによるプレゼンテーションづくりへと発展し、最終日である翌日午前の発表会へとつながっていきます。
 最終日は朝から地域の方々や、鈴木寛氏(前文科副大臣)、丸山邦治氏(丸山海苔店社長)らをお迎えしての発表会となります。12のチームが2014年9月にパリで行うイベントのアイディアを、パフォーマンスやPowerPointなどを駆使して発表します。「騎馬武者になってシャンゼリゼ大通りをパレード」「エッフェル塔の下で巨大ドミノ」「各地で東北博覧会」「日本の桜をOECD本部に植樹」など、若者らしい斬新なアイディアが披露され、パネリストからも賞賛の声と改善へのヒントなどが示されました。
 エンディングでは、これから地域での課題が示され、また参加した生徒たちに修了証書が、エンパワーメントパートナーには感謝状が手渡されました。そして、生徒代表の指示によりすべての参加者が一つの輪になり、OECD東北スクールの船出が高らかに宣言された思いがしました。

インターローカルな関係づくり

DSC_0556.jpg 2年半かけて生徒達を東北復興の担い手として育てるというプロジェクトの中、このスプリングスクールで確 認されたのは、大人の地域復興に収れんされることのない、子ども・若者達独自の復興への課題でしょう。社会が復興するまで子ども・若者たちは待ってはくれませんし、仮に社会の復興が成し遂げられたときに子どもたちの問題が解消するわけではありません。また、次世代を担う子ども・若者たちの復興ビジョンが、大人たちのそれと同じものとは限りません。子ども・若者たちのめざす未来が社会的に尊重され、そのことによって彼らに確実な希望を与えなければなりません。
 何よりうれしかったのは、「他の地域の人たちと交流できて、励まされた」と多くの参加者が述べている点です。地域と地域が直接むすび合う「インターローカル」な関係が、教育におけるこれまでにない新たな可能性を生み出してくれることになるかもしれません。
 彼らが、この復興期を子どもから大人へと変化する多感な時期を過ごさざるを得ないということは楽なことではありませんが、その姿は、多くの人々に勇気と希望を与えるに違いありません。
 OECD東北スクールはスタートしたばかりですが、この新たな可能性を現実とするために新たな教育の枠組みを提起するものでなければならないでしょう。









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